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消えてよあの日のお前の 声

2009.05.01 *Fri
(忘れさせてなどくれないのだろういくら耳を塞いでも鮮明に蘇るその 声を)
by選択式御題様。

暗めの蒼衣過去話。
読む際はお気をつけくださいませー。

――…これは、なに?


部屋中に満ちた強い血の香りと、点々と落ちる紅い跡。
しん、と静まり返った空間に、鈍く咳き込む音が妙に響く。
口一杯に広がる、明らかに自分のものではない鉄の味。唇の端から滴る、真っ赤な、血。
飲み込んでしまったそれが誰のものか認識する前に、華奢な少年の体が倒れ掛かってくる。
体重を支えきれない訳ではないのに、酷い眩暈と共に膝が折れた。心臓の音が、やけにはっきり聞こえる。

普通に考えれば、それがどれだけ異常な事なのかなんてことわかったはずだった。
けれど、まだ幼かった私にとっては、そんなことはどうでもよかったのだ。

「――…レイ、レイチェルっ……誰か、呼ばないと…」


何より彼が、死んでしまうのが怖かった。


「……大丈夫。大丈夫だから、ね?ほら……泣かないん、だよ」
くしゃり、と細い指が、白金の髪を撫でる。いつもなら嬉しくて仕方ないそれも、意味をなさなかった。
「やだ、…やだよ、レイ。アオイを置いていっちゃ、いや…」
子供じみた我侭を、繰り返し口にする。見えていないのか、彼の瞳はもう私を映していない。

「……アオイ。何があっても、笑っているんだよ。すぐに、…大丈夫に、なるんだから」
ほら、笑って。囁くような声につられて、無理矢理に微笑む。
嗚咽だけが零れて、涙は一つも流れなかった。
ゆるゆる、彼ももう一度微笑んで。するり、と白い腕が下に落ちる。

「ねぇ、アオイ、いい子にしてるから。だから、置いてっちゃ、やだよ…っ」

いかないで、言おうとしたのに、喉が塞がれて声も出なかった。
息をするのさえ、引き攣れたような痛みでままならない。
――嗚呼、呼吸するのって、こんなに難しいことだったっけ。

「……おや。少しは役に立ったのか」
嘲笑混じりの、聞き慣れた声。
条件反射で、私の体は一気に強張る。
「……、…おじい、さま」
部屋に入ってきた祖父は、私の姿を見て満足げに笑って。
当然のように、言った。
「さぁ、部屋に戻ろう。……あぁ、ソレは暇な者にでも始末させるから、放っておけ」

まるで、いらなくなった玩具を、捨てるように。

事も無げに、私の手を取って。

――…嗚呼、もう、とっくに。


わたしが気づかなかっただけで、全て狂いに狂っていたんだ。


パシン、音を立てて、祖父の手を振り払う。
少しだけ、躊躇った。檻から出ること。けれど直に、振り切って、

「……さよなら」

ガシャン、硝子の割れる音と、一瞬の浮遊感。
そのまま私は、窓枠ごと地面に落ちた。


破片の刺さった傷口が、少しだけ痛む。けれどすぐに、痛みも出血も癒えてゆく。
長い長い、蒼灰の髪。もう紅ではなく黒にしか見えない、血で染め上げた白のワンピース。
―――王子様の命と引き換えに魔法は解けて、私は人魚に戻ってしまった。


閉じた世界に居る必要も無くなって、自由に海に帰れるけれど
あのひとのいない世界で自由になったって、なんの意味もないって言うのに。


あぁ、ほら、地上じゃ呼吸さえ上手く出来ない。



さらり、と。長い髪が肩から滑る。
怒声と悲鳴の響く屋敷に背を向けて、私はふらりと歩き出す。
そのまま、私が屋敷に戻る事はなかった。……日本に、行ったから。


もう二度と戻れない、閉じた世界。
幼い私が手放した、閉鎖的でも平穏だった、あの頃の世界。


(囚われた平穏と、自由な痛み。……どちらが、幸せだった?)
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プロフィール

月白・蒼衣

Author:月白・蒼衣
銀誓館学園高等部2年5組
魔弾術士×月のエアライダー

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お手紙で聞いていただけるとー。



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